『 ペンギン・マター 』
――――――――――――――――――― エピローグ




 
宇宙船から懐かしい田んぼ道に降り立ったナツとユキは、顔を見合わせてうしうしと笑いあった。
あんなに退屈でいやだと思っていた緑ばかりの田舎風景が、たまらなく愛しく感じたのだ。
「帰ってきた〜」
「帰ってきたあ〜!」
 踊るように『緒方一家』の扉をひらき、ただいま!と叫んで、母と祖母の胸元に飛び込んだ。

 夏海の願いを聞き入れたペン帝国からの正式な連絡で、地球とペン帝国は不可侵の条約を結び、グィングィン星人と遭遇を果たした緒方一家も解放され、もはやつけ狙われる事はなくなったのである。
 一般人にはその存在は開示されてはいないが、これから先、しかる時期にその存在を公表すると、国連は各国に通達を出した。




 夏休みの終わりに、縁側でスイカを食べながら、姉と弟は夜空を見上げた。
キラリ、と夜空に一筋の光が走る。 「あっ、流れ星!」と叫んで、夏海はふと思い出した。
「なあ、ユキ」
「うん、何?」
「ルルが来た時さ、流れ星と思って願いごとしたやん。 あれ、なに願い事した?」
「…お姉ちゃんは?」
「あたしは、『友達ができますように』って願った」
「じゃあ、叶ったね。宇宙人の友達がたくさん。」
 雪丸はにっこりと笑った。 
「ユキのは?」
「僕のももう叶ったよ」
「え、言うてよ」
「いやや」
「ずるーい、なにそれ!」
 お姉ちゃんのお願いが叶いますように。 
流れ星にしてはずいぶんのろのろしていたけれど、願いは、かなえられたようだ。
大好きな姉の笑顔が戻ってきて、雪丸は嬉しかった。
「お姉ちゃん、ほら、もうひとつ来たで!」
「ほんまや、また流れた。 すごい、大量や。 せっかくやからまた願いをかけとこう!」
「よしきた!」
 二人は手を合わせ、目を閉じ、願い事を高速の早口言葉で繰返した。



☆ ☆ ☆



 分厚い氷の大地に、空から銀色のタマゴがゆっくりと降り立った。
中央にスーッと切れ目のようなスリットがはいったかとおもうと、くす球のように、そこからぱっかりと二つに分かれた。
中から出てきたのは、コウテイペンギンにそっくりな姿をしたペンギンだった。

 彼は時折、南極を訪れては、ゆっくりと時間を掛けて探し物をしている。
探しているのは物ではなく、仲間だ。 彼の最愛のひととも言えた。
 腹ばいにスピードを上げて雪の上をすべっていくと、大きなコウテイペンギンの群れに遭遇した。
ひとりひとり、顔を見ながら、探し人鳥をしているんです、と声をかけてまわる。

 やがて、幼稚園(クレイシ)にたどりついた。
灰色の産毛のかたまりのような雛たちが、押し合いへしあいする傍で、彼らを守護する人鳥がいる。
 その姿を見て、やってきたペンギンは立ち尽くした。
高く高く、キューア、と叫ぶ。

 クレイシの守護者は振り向き、はっと顔をあげた。
駆け寄るふたりのペンギンは、どちらともなく、叫んだ。

「ギョエー、ギョワー!」


南極の青く澄み渡った空に、その声はどこまでも高く遠く響いた。





おしまい。

2012.7.30 Update. ペンギンフェスタ2012参加作品

  


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fine.

 
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【あとがき】
ネットで初めて文章を書き始めてから、もう10年近くになりますが、
今回初めて、連載長編を終了させることができました。
このような機会を与えてくださったbutapennさんと、ペンギンフェスタに心より御礼を申し上げます。
ありがとうございました。
また、6話のテコ入れ等、読み手に対して大変失礼な行為を行ってしまった事を、書き手として深く反省しお詫び致します。
誠に申し訳ございませんでした。


ペンギンフェスタが終わってしまうのは非常に残念ですが、作品や掲示板は今後も残るようですので、
是非、↓のリンクより訪れてみて下さい。

拙い物語にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。




  この作品は、
BUTAPENNさん主催のオンライン企画 『ペンギンフェスタ2012』に登録させて頂きました。

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